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2024.03.18

  • 右脳で考える高分子化学

Vol.08 高分子の分子量(前編)-平均分子量-

右脳で考える「高分子化学」

分子量は分子を構成している原子の原子量を足し算したもので、分子の質量です。原子量は炭素12=12とした時の原子の質量で、おおよそ炭素Cは12、水素Hは1、酸素Oは16です。したがって低分子は簡単にかけ算や足し算で分子量を求められます。しかし高分子はモノマーがたくさんつながったもので、長さにもバラつきがあります。分子量をどう取扱えばいいのでしょうか。大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。

高分子の分子量はどう計算したらいいんですか?

  • 低分子の分子量は計算が簡単じゃないですか。例えばエタノールはCH3CH2-OHなんで、C2個、Hが6個、O1個で、1221616146。高分子はどうやって計算するんですか?これだとかなり時間かかっちゃいますね。

    イラストA-D.png

  • 高分子は低分子に比べてはるかに長く、構造も低分子のようにはっきりしないので計算できません。高分子の性質を利用して測定して求めます。高分子はいろいろな長さの分子の集合体ですが、この高分子は分子量10万のが5本、3万のが2本・・・とかの表現は意味がありませんので、全部同じ長さとすると・・・と考えて平均分子量で表します。

  • そうかー。分子量12,000だ、とかいうのは平均値だったんですね。

  • 平均分子量にもいくつか種類があり、よく使われるのは数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)です。

  • えー。平均するんだから、1本1本の高分子の分子量を足して、それを高分子の総本数で割ったのが平均分子量じゃないんですか?

  • それが数平均分子量(Mn)です。Mnも重要ですが、どんな長さの高分子も1本としてとらえるので、分子量の小さい高分子の数に影響を受けやすい平均分子量です。

    スライド2.PNG

  • ほんとだー。分子量の分布では30,000がピークなのに、短い高分子に引張られて平均分子量は18,400になってる。なんかイメージ違うな-。

  • 高分子の性質は長い高分子の性質に引張られがちなので、高分子の性質と平均分子量の関係を考える場合は重量平均分子量(Mw)がよく使われます。高分子の数ではなく、1本1本の重量の合計が分母に、1本1本の重量にその高分子の分子量をかけたものの合計が分子になります。どの重量の高分子の割合が多いかに焦点があたるので短い(軽い)高分子の影響が小さくなります。加重平均です。

    スライド3.PNG

  • かなり大きくなりましたね。確かにこっちの方がイメージに近いような・・・。

  • スライド4.PNGMwをMnで割った値、Mw/Mnは高分子の分子量のバラツキを表し、バラツキが大きいほど大きい値をとり、高分子がすべてきっちり同じ分子量の場合、きっちり1になります。

  • きっちり同じ長さの高分子を作る重合方法ってあるんですか?

  • リビング重合と呼ばれる方法である程度長さがそろった分子量分布がシャープな高分子が得られます。

  • 同じ長さのものばっかりできるより、長いのがあったり短いのがあったりいろいろ混ざってる方がいろんな意味でよさそうな気がします。

  • 高分子に求められる機能や性質によります。

(まとめ)

Mw/Mnは分子量分布や分散度と呼ばれ、分子量分布がどれくらい狭いかを表し、高分子合成化学や高分子成形をはじめ様々な分野で使用されます。

 高分子のガラス転移点や機械的性質などの主な物性は、系の中で長い高分子の影響を受けるため、分子量との関係を考える場合はMwが用いられます。

 ポリエチレンは分子量が大きいほど高融点になります。通常の重合方法で低融点の高分子を作ろうとすると、分子量がバラつくため、低分子量部分が一定量含まれ、べたつきのあるポリエチレンになってしまいます。メタロセンポリエチレン(mPE)はメタロセン触媒を使うリビング重合の一種で生産され、分子量分布が狭い高分子が得られるので、低融点でも低分子量部分が少なくべたつきの少ない低融点ポリエチレンが得られます。

 高分子材料の分子量分布はシャープなほどいいかというとそうではなく求められる機能、性能によってケース バイ ケースです。異なる分子量分布の高分子を混ぜて分散度を広げるケースもあります。