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2025.03.24

  • 実践!フィルム編

Vol.03 共押出多層フィルムとラミネートフィルムの違いとは?(ゆっくり解説動画有)

右脳で考える「高分子化学」

2種類以上のフィルムが重なってできているフィルムを多層フィルムといいます。製造方法は大きく2つ、共押出法とラミネート法です。そもそもなぜ多層フィルムが必要なのか?2つの多層フィルムは何が違うのか?多層フィルムはリサイクルできる?それぞれの特徴に焦点を当てて大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。

多層フィルムって何ですか?

  • =多層フィルムの必要性=

    プラスチックの袋ってよくみると、リサイクルマークが付いていてその下にPE,PAとか書いてるじゃないですか。あれって何ですか?

    イラスト1.png

  • ポリエチレン(PE)とポリアミド(PA)からできた多層フィルムということを表示しています。2種類以上のフィルムが重なってできています。

  • 2種類のフィルムって・・・。
    なぜわざわざ多層フィルムにするんですか?単層のフィルムじゃだめなんですか?

  • フィルムに求められる機能によります。スーパーのレジ袋は、取っ手やマチが簡単に加工出来て、少々重めの食料品が運べたらいいので、単層ポリエチレンで大丈夫です。しかし例えば食品の真空パック。食品を袋に入れて脱気して密封することで食品中の酸素を減らし、食品の変質、劣化を防ぎます。しかしポリエチレンの単層フィルムで真空パックすると、はじめは空気が抜けて「ぴっちり」していますが、翌日には空気が戻って「ぐすぐす」になります。これはポリエチレンのフィルムは空気を通す性質があるためです。そこで空気を通しにくいポリアミドと2層にして真空状態を保ちます。

    イラスト2.PNG

  • ポリアミドフィルムだけじゃだめなんですか?空気が通らなかったらいいんじゃ・・・。

  • ポリアミドの単層フィルムは融点が高く(200℃程度)、袋に加工したり、食品を詰めたあとにシールできないんです。ポリエチレンの融点は120℃程度。低温で容易にシールできます。シール層やシーラントと呼ばれています。ポリアミドは酸素を遮断する、ポリエチレンは容易にシールできる、と2つのフィルムを重ねて多層にすることで1つのフィルムに2つの機能を持たせます。

  • =多層フィルムの製造方法=

    多層フィルムはどうやって作るんですか?まさかのりで貼るとか?いや無理かー。

  • 正解です。製法は大きく2種類。1つは2つのフィルムをのりで貼るラミネートという製法です。フィルム業界で「ラミ」と呼ばれています。そのなかのほとんどはドライラミネート。有機溶剤に溶かした接着剤を一方のフィルムに塗って、乾燥ゾーンで溶剤を蒸発させた後、もう一方のフィルムを貼り合わせます。

    イラスト3.PNG

  • の、のりで貼るんで、あってたんですね。もう1種類の製法は何ですか?

  • 共押出です。フィルム業界で「共押(きょうおし)」と呼ばれています。ほとんどのフィルムは押出成形で作ります。共押出は2つ以上の樹脂を同時に押出して1枚のフィルムに成形する技術です。フィルムをのりで貼りません。

    イラスト4.PNG

    ■共押出の詳細説明はこちら

  • =共押出とラミネートの違い=

    共押出はワンステップで多層フィルムができるんですか!すごい技術ですね。共押出はラミネートとどんな違いがあるんですか?

  • 共押出のメリットですが、

    1.

    ラミネートより樹脂の種類や厚みが自由に設計できます。ラミネートは原紙(貼り合わせる前のフィルムロール)の厚みが規格化されているので、フィルムの厚みや種類に制限がありますが、共押出は押出量を調整することで特定の層の厚みを増減することができます。

    2.

    有機溶剤を使わないのでフィルムの残留溶剤がありません。またワンステップで多層フィルムができる省エネ製法なので、ラミネートと比べて製造プロセスで発生するCO2が少ない環境にやさしいフィルムです。

    3.

    接着剤で貼り合わせるラミネートは、フィルム間ではがれる(デラミ)ことがありますが、共押出は製法上発生しません。

    4.

    無延伸のためやわらかくてしなやかなフィルムなので、袋に加工した後の折れジワが発生しにくく、折れジワとダンボールとこすれて穴が開く摩擦ピンホールの発生を低減します。

  • より機能性が高く、環境にやさしい多層フィルムですね。ラミネートよりよさそう。

  • ラミネートもたくさんのメリットがあります。

    1.

    アルミ箔や紙などプラスチック以外と貼り合わせた多層フィルムがつくれます。

    2.

    カラー印刷(CMYKの4色のインキを使った印刷)が可能です。共押出フィルムはできません。またラミネートはフィルムの内側に印刷して貼り合わせるため印刷面にキズが付きにくいですが(裏刷り)、共押出フィルムはフィルム成形後に印刷するため(表刷り)、データ通りの色が再現できる反面、ものが当たるなどで印刷が取れる可能性があります。

  • そういえばポテチとか、鮮度を保つために中にアルミ箔が貼ってありますね。デザインもカラフルで商品のアピールに最適!ラミネートも必要不可欠な多層フィルムですねー。

  • =多層フィルムのリサイクル=

    多層フィルムって機能的でいいことずくめのようですが、単層フィルムと比べてデメリットはありませんか?

  • 単層フィルムは、1種類のプラスチックでできているので、使用後の容器包装や、フィルム製造プロセスで発生するロスは、回収して粉々にし、他の材料に成形し直して使ったり(マテリアルリサイクル)、化学的に分解してからもう一度重合してプラスチックをつくる(ケミカルリサイクル)ことでリサイクル可能です。ポリエチレンやPETなどで既にリサイクルシステムが確立されています。しかし多層フィルムはリサイクルが難しいんです。

  • 固くて粉々にならないからですか?

  • 基本的に違う種類のプラスチックは混ざらないからです。同じ炭素と水素からできているポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)でさえ混ざらず、成分が不均一な材料になって著しく強度が低下したり外観が悪くなります。そのため多層フィルムは燃やしてエネルギーとして再利用するのが一般的です(サーマルリサイクル)。

  • 燃やすと結局CO2になるんですよね・・・。残念。

  • 近年活発に研究開発されているのが、多層フィルムのマテリアルリサイクルです。油が水の中に細かく分散して乳製品になるように、異なる種類のプラスチックも相溶化剤を使うと片方のプラスチックに細かく分散して、ベースとなるプラスチックと同じプラスチックと混ぜることができるのでマテリアルリサイクルが可能になります。

    イラスト5.png

  • そうなんですね!これからはプラスチックとリサイクルは切り離せないのでリサイクルの勉強を始めます!

(まとめ)

・多層フィルムは酸素バリア層、強度を強くする層、シール層などを組み合わせた機能性フィルムで、
 食品、医療や工業分野をはじめさまざまな分野で使用されています。

・多層フィルムの製造方法は、複数の樹脂を金型内に同時に押出してつくる「共押出法」と、フィルムを
 のりで貼り合わせてつくるラミネート法に大別でき、用途に応じて使い分けられます。

・多層フィルムは燃やしてエネルギーとして使うサーマルリサイクルが主流でしたが、現在相溶化剤を
 使ったマテリアルリサイクルが検討されています。また多層フィルムの仲間で、プラスチックと無機物
 などを 混ぜた機能性高分子の「複合材料」は、廃タイヤ(ゴムとカーボンブラックの混合物)を
 はじめ、化学的に分解して低分子に戻してリサイクルするケミカルリサイクルの研究が進んでいて、
 この技術の多層フィルムへの展開も期待されています。