2024.06.19
- 右脳で考える高分子化学
Vol.09 高分子の分子量(後編)-分子量の測定-(ゆっくり解説動画有)
右脳で考える「高分子化学」
高分子の性質は分子量と密接に関係しているため、高分子の分子量の測定は極めて重要です。合成高分子はいろいろな分子量(長さ)の分子の集合体です。どうやって分子量を測定するのでしょうか?大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。
高分子の分子量はどうやって測るんですか?
高分子の分子量は計算するんじゃなくて、測定する、って言ってたじゃないですか。どうやって測るんですか、あんな固いものを。細かい粉末にするんですか?
高分子の分子量はSECで測るのが一般的です。高分子を溶媒(溶解する液体)に溶かして、それぞれの高分子の体積を測ります。
エス、イー、シー?体積って・・・。
SECはSize Exclusion Chromatography(クロマトグラフィー)の略号です。クロマトグラフィーはおおよそ「分ける」という意味です。高分子も長いものは体積が大きい、短いと小さい。体積に応じて分けることで分子量を測定します。
あんなミクロの紐みたいなものの体積ってどうやって測るんですか?
測定の原理は、溶解→カラム→検出器です。高分子はいろいろな分子量の高分子が電気的に結合して固まった集合体です。まずは高分子を溶媒(溶解する液体)に溶かして溶液にします。つまり、1本1本ばらばらにします。高分子は長いので、1本にしても溶液中で電気的に引合ってある程度丸まって固まり、そのまわりを溶媒がくっついた状態で存在します。長い高分子は大きい体積の球、短い高分子は小さい体積の球になります。
やっぱりここでも電気かー。でもばらばらにすると測れそうな気がしてきました。
次にカラム。カラムとは微粉末の充填剤を管にぎっしり詰めたものですが、SECには多孔質(たくさんの穴がある)の充填剤を使います。このカラムに高分子を溶かした溶液を高圧をかけて流します。この時、体積の大きい高分子は穴に入らないので早く通過して出てきます。逆に体積の小さい高分子は穴の中を伝って通過するので遅くなります。流して始めてから出てくるまでの時間(保持時間)の違いで体積を測ります。
確かに体積で出てくる時間が違いますねー。
最後が検出器。カラムをどの時間に通過して出てきたものがどれくらいの量あったかを検出器で測ります。量が多いほどその体積の高分子が多いことになります。
なるほどー。あっ、でも高分子の体積が大きいか小さいかはわかりますけど、高分子の分子量自体はわから・・・
標準試料と比べます。標準試料は高分子から特定の分子量のものだけを分離して取り分けたものです。つまり分子量がわかっている試料です。分子量の違う標準試料を何点か流して、それが通過する時間と比べることで測定した高分子の分子量を求めます。
・・・るんですねー。
- (まとめ)
SEC法は昔、GPC法と呼ばれていましたが、今では論文や学会でも一般的に「SEC法」が使われています。
高分子を溶解した時の体積は溶媒の種類によって異なります。体積の大きさを分子量に換算するので溶媒の種類はもちろん、充填剤の種類や標準試料の種類など様々な条件が一致していないと相対比較が難しい測定方法です。
充填剤の選定は重要で、測定する高分子の体積に対して、穴のサイズが小さすぎるとすべての高分子が通過するし、逆に大きすぎるとすべての高分子が穴を伝って通過するので分離できません。
標準試料にはポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)がよく用いられます。標準試料によって得られる分子量が異なるのが一般的で、例えばPSを標準試料にして分子量を測定した場合、「ポリスチレン換算分子量」といいます。言い換えると、ほとんどの場合、その高分子の絶対的な分子量はわからないことになりますが、研究開発において、絶対的な分子量が必要な場合はあまりありません。
モノとモノを混ぜるのは簡単ですが分離するのは容易ではありません。おでんの出汁。かつおと昆布から一番出汁をとり、砂糖、みりんやしょうゆを混ぜてつくりますが、これを元の素材や調味料に分離することはかなり難しいです。SECをはじめクロマトグラフィーの技術はさまざまな研究開発に必要不可欠で日進月歩で発展しています。
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