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2023.05.01

  • 右脳で考える高分子化学

Vol.01 高分子の熱伝導

右脳で考える高分子化学

さて、シリーズ第1回目、高分子の熱伝導について右脳を使って直感的に理解いただきます。鉄や銅などの金属はすぐ熱くなるのに、プラスチックは全くそうではない。この性質の違いはどこからくるのか大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。

 

なぜプラスチックのコップは熱くならないんですか?

  • プラスチックのユニークな性質のひとつは熱を伝えにくいことです。例えば銅の湯飲みに熱いお茶を入れると触ったら熱いですが、ポリプロピレン(PP)の湯飲みだと持っても平気です。断熱性が全然違います。

  • そりゃそうですよー。銅の湯飲みは触ったら冷っとしてて、PPのは触ってもほっこりというか、なんか温かみがありますよねー。あれっ、理由になってないな。なぜ断熱性が違うんですか?

  • 熱を伝える方法が全く違うからです。金属は金属原子からできています。原子は原子核の周りを一定の軌道を電子が回っている構造ですが、金属は原子核が電子を引付ける力が弱く、電子を近くにとどめておけず、電子は金属内を自由に動けます。これを自由電子といいます。銅の湯飲みに熱いお茶を入れた場合、激しく動き回っている水分子が銅の表面に衝突、そして金属内の自由電子に衝突、主にこの自由電子が衝突を繰り返して離れたところにも運動を伝えて、手で持っている方の表面も熱くなります。

    イラストA.png

  • えーっ、電子が熱を伝えているんですかー、ってプラスチックも原子が集まってできてますよね。なぜ同じように自由電子で熱が伝わらないんですか?

  • 通常の高分子は主に炭素(C)や酸素(O)、水素(H)や窒素(N)といった原子からできています。これらは原子核が電子を引寄せる力(電気陰性度)が強く、電子を束縛し、自由電子がないんです。

  • じゃあプラスチックはどうやって熱を伝えるんですか?

  • 激しく動き回っている水分子がPPの表面に衝突し、表面の高分子の鎖がイモ虫のように動かされて、となりの高分子を動かして、というのをくり返してゆっくり手の方の表面に伝わっていきます。だから熱伝導が極端に遅く、手で持っても平気なんです。

    イラストB.png

  • えーーー。あんな固いものが動くんですか?

  • はい、高分子は固そうに見えますが、例えばPPの鎖(主鎖)は室温でもかなり激しく動いています(分子運動)。PETボトルで70℃くらいから動き始めます。

  • PETのお茶飲むときに高分子の動きを感じてみます。

  • きっとわかりません。

(まとめ)

 金属とプラスチックは自由電子の有無で熱伝導の性質が大きく分かれます。自由電子は熱伝導だけではなく、電流の担い手でもあります。金属とプラスチックの導電性の違いは同じく自由電子の有無です。

ここでは電子は丸い玉で、惑星のように軌道を回ってるように表現していますが、実際はどこにいるのか原理的に分からず、位置は存在確率でしか表せません。

炭素(C)や酸素(O)、水素(H)や窒素(N)といった有機物を形成する原子核が、電子を引寄せる力(電気陰性度)が強いのは、金属に比べて原子が小さく、原子核と電子の距離が短いことに起因しています。金属は電子が遠いところに存在していて捕まえておけません。

人間も「熱い」人ほど活発に行動しますが、分子も温度が高いほど激しく運動します。逆を言えば、「どれだけ動いているか」ということが「温度」です。