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2023.08.02

  • 右脳で考える高分子化学

Vol.03 高分子の接着(後編)-接着力-

右脳で考える高分子化学

さて、高分子の「接着」について、前回は接着剤と被接着物のぬれ性の重要性について直感的に理解いただきましたが、今回は乾いて固まった後の接着力について大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。

接着するとなぜはがれなくなるんですか?

  • 接着剤を塗るときのぬれ性が重要なことは説明しましたが、接着剤が乾いた後、なぜ接着したままになるんでしょうか?

  • えっ、接着剤と被接着物がゆっくり化学反応して一体化してはがれなくなるんじゃないんですか?イラストA.png

  • その力を「化学的相互作用」といいます。ただし実際ほとんどありません。ぬれ性の時にお話ししましたが、被接着物の表面は不安定で、いろいろなものを吸着しているので、官能基(化学反応しやすい部分)がむき出しじゃないことが多いんです。

  • えー。じゃあ他にどうやって?反応してないとはがれるような気がします。

  • 大きく分けてあと2つの接着力があります。ひとつは「機械的結合」です。接着剤が固形物の表面の凸凹に入り込んで乾いて固まることによって、機械的に引っかかってはがれにくくなります。木工ボンドをイメージするとわかりやすいと思います。イラストB.png

  • なるほど。イメージしやすいです。

  • もうひとつは「物理的結合」です。接着剤の分子と被接着物の分子が電気的に引き合って(分子間力)はがれなくなります。これが接着力の主要因です。

  • 分子間力?電気的?あのプラスとマイナスですか。

  • 共有結合している原子と原子の間の電子は絶えず運動していて、瞬間的に電子が多い部分(-)と少ない部分(+)が発生し続けます。nmレベルまで接近すると結合していない分子間でもその電気力で引き合います(ファンデルワールス力)。この力が高分子(接着剤)と被接着物の間に働き、接着します。

    イラストC.png

    また酸素(O)は、電子を引寄せる力が水素(H)より強いので、常に酸素がマイナス、水素がプラスを帯びます(極性)。分子間でこの電気力で引き合うと接着力が強くなります(水素結合)。イラストD.png

  • なるほどー。高分子(接着剤)と被接着物の間にはすきまがあるんですね。

  • 水分子は高温だと動き回っていますが、0℃になると凍って固体になります。この時水分子と水分子は結合していませんが、すきまはイメージされません。近づきすぎて動きが制限されて固まった、こっちのほうが接着のイメージがつかみやすいと思います。

    「ぬれ」や「接着」は現在でも謎に満ちていて活発に研究されています。例えばアワビは水槽からはがそうとしても強く接着して取れませんが(図A)、自分が動こうと思うと平気で接着を解いて移動します。(図BイラストE.png

  • あっ、そうか!アワビかー。今日の晩ご飯、教授のおごりでお寿司にしませんか?

(まとめ)

高分子(接着剤)は、被接着物と被接着物の間で、nmレベルまで近づき主に電気的に引き合うことで接着します。分子内で電子の偏りが大きい(極性が強い)被着物は接着力が強くなります。ポリエチレンのように極性が弱い被接着物の接着を強めたいときは、コロナ処理などで表面に極性の強い官能基(-OH、-COOHC=Oなど)を発生させる方法があります。

たとえ高分子(接着剤)と被接着物はくっついていても、接着剤の内部が破壊されると接着が剥がれます(凝集破壊)。高分子(接着剤)自体も強靭性が求められます。四国化工の共押出多層フィルムも、層と層の間は電気的に接着しています。