2023.11.02
- 右脳で考える高分子化学
Vol.05 高分子の極性(ゆっくり解説動画有)
右脳で考える「高分子化学」
紙袋はセルロースという天然の高分子でできていますが、水を入れるとボロボロになって水が漏れます。一方ポリ袋はポリエチレンという高分子ですが、水を入れても溶けて穴が開くことはありません。この性質の違いについて大枠を高分子化学のゼミ学生とともに理解しましょう。
なぜ紙は水が付くとすぐ破れるんですか?
昨日の晩、縁日に行って、金魚すくいみたら懐かしくなってついやったんです。最近1回500円もするんですよ。ところがもう少しのところでポイに穴が開いて、辛そうにしてたらおじさんが1匹くれたんです。今大きめのコップに入れて飼ってます。あっ、今日エサ買って帰らないと。
ポイは紙で、セルロースという植物由来の高分子です。水さえなければある程度重いものでも乗せられますが、少しでも水が付くと著しく強度が低下して金魚1匹でも破れます。
何となくイメージ通りですが・・・、紙は水に溶けるから・・・ですか?
高分子は親水性か疎水性に分かれます。親水性は水がくっつきやすい、疎水性はくっつきにくい性質です。どちらになるかは高分子の極性が関係します。
極性って、共有結合の結合間で電荷が電気陰性度の大きい方の原子に引張られて偏ってプラスとマイナスに分かれる程度でしたよね。やっぱり電気かー。
電気です。セルロースはグルコースという分子がつながった高分子です。1つのグルコース単位には水酸基(-OH)と呼ばれる極性の強い部分が3つ付いています。乾いた紙はこの水酸基が水素結合で引き合ったガラス状態で、Tgが300℃、高耐熱で高強度の材料です。極性か強い部分がたくさんある高分子が親水性高分子です。親水性高分子は必ずしも水に溶けるわけではなく、むしろ溶けないものが多いです。その高分子に水分子がくっつきやすいかそうでないかが分かれ目です。またここからが親水性高分子で・・・という明確な基準もありません。
水がくっつきやすい親水性高分子のセルロースは、水酸基に水がくっつきます(水和)。このため高分子間で働いていた水素結合がなくなり、引き合う力が著しく低下し、強度が落ちます。
なるほど。じゃあ疎水性高分子が水に触れるとどうなるんですか?
疎水性高分子は極性が小さく、水が電気的にくっつきません。例えば金魚袋はポリエチレンで疎水性高分子ですが、水をほとんど吸わず(吸水率0.04%)防水性に優れた材料です。
(あっ、ポリエチレンでつくったポイとすり替えると・・・。)
- まとめ
例えば紙でできたノートは、少し水がかかったくらいでポイのように破れるとダメなので、水酸基に極性の小さい分子(サイズ剤)を反応させて疎水性の方に寄せて耐水性を調整しています。
親水性高分子は水酸基のように必ず親水性の部分(親水基)があります。親水基はセルロースのように主鎖に引っ付いている場合もありますが(側鎖)、ポリエチレングリコールやポリアミドのように高分子の主鎖自体に親水基がある親水性高分子もあります。疎水性高分子はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどがあり、多くは炭素と水素のみからできた高分子です。
セルロースを化学的/機械的に処理してナノレベルまで微細にした繊維(CNF_セルロースナノファイバー)は植物バイオマスでカーボンニュートラル、軽くて高強度、線膨張係数が低いなどの特徴から次世代の高分子材料として研究が活発化しています。
四国化工の共押出製法でポリアミド(親水性高分子)とポリエチレン(疎水性高分子)から多層フィルムを作るとき、接着しませんので、ポリエチレンに親水基を反応させて親水性部分と疎水性部分を併せ持った樹脂(接着性樹脂)を間に押出して両者を電気的に接着させます。
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